10話「歌詞完成とダンスと」

「ただいまー」

「ただいま」


2人で声を揃えて玄関を開けると、すぐ近くにいたらしく、ちょっとびっくりしたようなおばーちゃんの声が聞こえた。


「おかえり、2人とも」


「あ、おばーちゃんちょうどご飯作るところ?

俺手伝う!」


「俺も。

まず手を洗ってきて…」


なんて、雪月と荷物を置きに行きつつ、ちょっと話をする。


「雪月、歌詞どう?」


「…やっぱり、雨月も悩んでる?」


「それはもちろん!

…あれでいいような気もするし、ちょっと変えたらもっと良くなるなって場所もある…気もするし…」


「ご飯食べたら、電話してみる…?」


「あ、それいいかも!

じゃあご飯後に部屋に集合!」


「…うん」


そう2人で決めた後、おばーちゃんに今日あったことを話して、ご飯を食べて。

…いよいよ、電話をする時がやってきた。


「……俺から電話かけるのってなんか緊張する…」


「LEENEのグループ通話だし、俺がかけようか?」


「…いや、俺がかける…!

…よし、せーのっ…!」


ピッ


プルルルル……


「もしもし?」


呼び出し音が鳴って、少しした後。

流衣の声が聞こえてきた。


「も、もしもし!

流衣?」


「うん。

隣に竜もいるよー」


「…良かった」


「?」


「かける前、すっごい緊張してて、違うとこかけたらどうしようって悩んでたから…。

2人がいて、安心した…っていうか…」


「あるよね、そういうこと」


「!

流衣もそういうのある?」


「もちろん。

まあ、俺の場合は確認もたくさんして違う人だったらこうして…みたいなことを考えてからかけるんだけどね」


「…意外に、流衣って慎重派?」


「意外どころか毎回緊張するわ人見知りもするわで大変だからな」


「ちょっと竜…?」


「あはは、…そっか、流衣もそうなんだ」


「だから心配しなくても大丈夫!

…っとそうだ、そろそろ本題に移った方がいいよね。

歌詞のこと?」


「そう、歌詞のこと!」


「俺たちでちょっと考えたけど、…上手く浮かばなくて」


「なるほどなるほど…。

そういう時は遠慮なく俺たちに頼ってくれていいからね!

曲のことなら竜が相談に乗るし、歌詞なら俺が…って言えるほどアドバイスとか出来るか分かんないけど」


「大丈夫、流衣は俺たちの師匠だから!」


「…うん。

本当に流衣、はすごいと思う」


「…ストレートに褒められるとちょっと照れる…って…師匠?」


「師匠!

先生もいいかなって思ったけどなんか距離がありそうだし、師匠なら近そうで!」


「…師匠、師匠…」


「流衣、にやにやしてないで話進めるぞ」


「はっ、そうだった竜隣にいるんだった…。

じゃあ本格的に歌詞の話していこっか。

どの辺で悩んでる、とかはある?」


「えーっと…。

俺たちのことを歌詞にする、っていう1番なんだけど…」


「2人で…のところだね」


「そう、そこ。

2人で歩いてきて、みんなに出会って変わったよって話がしたかったんだけど、なんかこう…違う歌詞ってないのかなって」


「…違う歌詞…」


「例えば、君と出会って世界が変わった…っていうとちょっとそのままかな、って思って…」


「ああ、確かに。

そこを変えるなら…色がついた、とか色が変わった…とか…」


あと何かあるかな、なんて考えてくれる流衣。

…色が変わる…。


「それ、いいかも」


「色がつく?」


「変わる、の方…だよね?」


「うん、そっち。

元々色はあったけど、変わったってちょっと綺麗な感じがする!」


「…ってことは…。

ここがそう変わって…あ、その後はどうする?」


「この後、aquaに向けて歌うなら、君と僕が出会ってこれからも一緒に進んでく、みたいな…」


「…いいな」


「あ、じゃあ、今日と未来を結ぶ…とか…」


「あ、それ採用!

今までが繋がるって感じするし、一緒って感じもする…!」


「そうだね、いいかも。

…とすると2番の俺たちは…」


「今日と未来、今と先なら過去と今で全部繋がる感じにする、とか」


「採用!

今日と未来を繋いで、今日…今は過去と繋がる!

…わくわくしてきた…♪」


「流衣、いい感じの歌詞が出来るとテンション上がるタイプ?」


「多分な。

これは多分今日中に歌詞決まるだろうな」


「じゃあ俺たちも頑張って決めよっと…!」


「えーっと…あとはサビの前…かな?」


「さっきのところから繋がる歌詞、か」


「1番で言うと今日と未来を結んだわけで……」


「?

雨月、何か浮かんだ?」


「もういっそ、このままずっと一緒に…って入れちゃうとか!」


「めちゃくちゃ一緒にいるな」


「まあユニットってそういうものだしね♪

あ、せっかくだし2番はちょっと変える?」


「…過去だし、これまで、って入れるとか…」


「…これまで。

…はっ、これまでも全部大事に進もう、みたいな!」


「ひっくるめて、全部俺たち、いいね」


「aquaを作ってく、って感じがするね」


「まあ、いいんじゃないか」


「…ってことは…あれ、もう完成…?」


「まだ最終調整は残ってるけど、まあだいたいは?」


「あ、じゃあ明日会議室で歌いつつ録音する?」


「うん、それがいいかも」


「…楽しみ」


「よーし、じゃあ、あとは明日!

流衣、竜、ありがと!」


「こちらこそ!

またいつでも電話してね」


「じゃ、また明日」


ピッ


電話を切って、雪月と顔を見合わせる。


「ついに、俺たちの曲が出来ちゃうんだな〜……」


「楽しみ、だけどちょっと緊張もするね…」


「まあでも竜が言ってた通りだいたいだから明日本決定で……。

あれ、もしかしてそこで決まったら明日ダンス…?」


「…あ」


2人して忘れていたダンスの存在を思い出す。

…明日、もし踊ることになったらちゃんと出来るかな……。


…なんて、思っていたけど。

次の日、朝おばーちゃんに行ってきます、と言う頃には不安より楽しみが勝っていて。


「なんか、いけそうな気がしてきた…!

歌って踊るぞ〜!」


「うん、俺も頑張る」


「はっ、もしかして今日ってレッスン室…いや、やっぱり会議室?」


「あ、踊るかも、って?」


「そうそう。

踊るぞーなんて言って今日は歌詞の話だけって可能性もあるし…」


ちょっとLEENEで聞いておこうかなーとぽちぽち打って。

送信した頃、すぐに返事が来る。


「…早…!

えーっと、今日は集まるのは会議室、途中でレッスン室に……ってことはやっぱり」


「ダンスもやるんだね…」


「服装、一応踊れそうな感じにして良かったー」


「って、いつも踊れる格好のような…」


「うん、俺もそんな気がしてた」


そんな話をしつつ、もう慣れたconstellationへの道を歩く。

あとはここを左に曲がって…。


「わ」


「……わっ…ってあれ、流衣?」


「時間ぴったり、さすが雨月と雪月だね」


「…もしかして、待ってた?」


「待ってない…けど、時間的にちょうど来るかな、と思って」


「それで、まあさすがにぴったりの時間には…って話してたら2人が来た、って感じ?」


「おおー、なるほど。

って、それ結局待っててくれてるような?」


「まあまあ。

それはとりあえず置いておいて…、曲、完成版聞きたくない?」


「…完成版…?」


「前のでも、結構すごかった気がしたんだけど…」


「ふっふっふ、実は昨日竜が2人の考える歌詞を聞いて、ちょっと直したいって作業しててくれたんだよね」


「…ちょっと直し?」


「ああ。

歌詞によって若干雰囲気やメロディが変わるだろ。

それの直し」


「…ってことは…」


「そう、昨日ので歌詞が完成!

それを今日録ります!」


「今日?!」


「急…なんだね?」


「まあ、今日って言っても試しに歌ったり順番決めたりしてからにはなると思うけど…。

ダンス、やらなきゃいけないからね」


「…ダンス……!」


「そのために2人にも動きやすい格好で来てもらったわけだし、出来ることはみんなやらないと!」


「…よし、俺頑張る!」


「…俺も」


「もちろん俺たちも!

頑張ってaquaの始まりを見せよう!」


「おー!」


……なんて、完全にテンションが上がって言ってるけど、よく考えたらここまだ事務所前だったなーと周りの人の視線で気づいた。

…中入ってからやれば良かった…。


「えーと、じゃあ中入ろっか…」


「……はーい…。

…ってあれ、竜は?」


「竜なら、視線を向けられたくないってもう中入ってる…」


「…あー…」


竜がおー!とかやってる姿は想像つかないなーとは思ったけど、もう中に入ってるとは思わなかった。

…うん、俺たちも中入ろっと…。


「さて、無事に入れたわけだけど…。

まず受付をして…今日はなんと、会議室から始まるけど歌詞と歌の調整終わったらレコーディング用の部屋に行きまーす!」


「レコーディング室…!」


「…本格的に歌を録るんだね…」


「それはもちろん!

…って言って俺も使ったことはないから入るの初めてなんだけど…。

すごいところだって冷さんに聞いてるから!

あとのお楽しみだね♪」


「どんなとこだろ…」


「楽しみだね」


「うん。

…あー、でも、ちょっと緊張する…」


「大丈夫大丈夫、怖いところじゃないから♪」


「…じゃあ、ちょっと楽しみに…ってあれ、今日こっち?」


「こっちこっち。

レコーディング室が近いからって理由なんだけど…」


「流衣、そこレコーディング室の扉だからな?

会議室はこっち」


「…あれ」


「まあ、先中見てもいいけど」


「!

見たい!」


「…俺も、気になる…」


「んじゃ、そのまま真っ直ぐ行って…左から2番目がaquaの予約部屋だから」


「はーい…って広…!

これがレコーディング室…!」


「4人で録るってなるとまあ、このくらいにはなるだろな」


「はっ、あれはモニター…!」


「かっこいいね」


「こういうの見るとテンション上がる…!

ってまずは会議室で歌詞の最終決定、だっけ」


「そうそう。

はい、じゃあ会議室行くぞ」


「はーい」


そんな感じで、レコーディング室を出て会議室へ。

レコーディング室の近くって言ってたけどどこなんだろ…。


「はい、到着!」


「…こんなに近く?」


「もうこの後レコーディング室行くって分かってるからな。

1番近いとこ取らせてもらったんだよ」


「さすが柳原さん…」


「じゃあ、目の前で話してるのもあれだし中入ろっか」


「ああ」


ピピッ…とカードキーをかざして中へ。

…中はいつもの会議室と同じでちょっと安心…。


「じゃ、さっそくやるか」


パソコンを取り出した竜がセッティングをしている間。

俺たちは昨日考えた歌詞たちを見つつ話をしていた。


「えーっと、ここが俺、その後が雪月で…」


「ここが流衣…かな?」


「多分そんな感じかな。

あ、ここは俺と竜で歌うといいかも」


「最初はやっぱ4人?」


「4人でがいいよね。

歌ってみてまた考えることになるとは思うけど…」


なんて話をしていると、竜の方の準備が終わったらしく。

修正した曲を聞くことに。


「じゃ、流すぞ」


「はーい」


〜♪


流れた曲になんとなく歌詞を当てはめつつ、心の中で歌う。

…ここがこの歌詞で〜…あ、ここ俺の歌うとこだ。


カチッ


「こんな感じ。

まあ、前と大きく変えてはないから細かいところしか変わってないけど」


「でもなんか雰囲気が良くなった気がする!

俺心の中で歌っちゃったし…」


「うん、俺も。

…ちょっと声に出してたかも」


「これは歌っちゃうよね、わかるわかる!

俺も思いっきり歌ってたし♪」


「流衣のは本気で歌ってたな」


「でしょ、これは歌うって♪

それで、2人ともこのまま歌えそう?」


「もちろん!

あ、今回も録音する?」


「ああ。

俺が録るし好きに歌ってもらって良いけど」


「けど?」


「早くしないとレコーディング室予約の時間になるからな?」


「…はっ、そうだった…!

じゃあさっそく〜」


「あ、歌うならまたちょっと机とか移動する?」


「そうだね。

この辺ちょっとどかして……」


ガタガタ…


「よし、おっけー♪

並びは前と同じで良いかな」


流衣の言う通り、竜、流衣、俺、雪月の順で並ぶ。

…そして、録音係の柳原さんの合図を見て4人揃って歌い出す。


「キミの声を〜♪」


歌っていると、やっぱり俺たちの曲って凄いな、とか、ここの歌詞好きかも、とか思って。

最初から最後まで、丸ごと全部好きな気持ちが溢れてく気がする。


「〜♪」


隣で、楽しそうに歌う流衣を見て。

反対の隣で、ちょっと緊張しながら、でも楽しそうに歌っている雪月を見て。

最後に、ちょっと遠いところで淡々と、でもどこか楽しそうな、嬉しそうに歌う竜を見る。

まだデビューもしてなくて、この曲が出来たのも昨日だけど。

俺たちの始まりは、最初の一歩はここからなんだな、って思えた。


カチッ


「……」


歌い終わって、自然とみんなで顔を合わせる。

ここが良かった、ここがもうちょっと。

そんな声が聞こえてくるような気がして、でも誰も言葉を発してなくて。

…もしかしたら、今のが最高だったのかもしれない…なんて思い始めた時。


「よし、じゃ、聞くか」


「…冷さん、もうちょっと余韻みたいなのない?」


「余韻に浸ってても良いけど、その分レコーディング室使う時間減るからな?」


「…!」


「あはは、そういえばさっきからそう言ってたっけ…。

大人しく、聞きまーす」


「録ったの聞いて、レコーディング室に移動、向こうで2〜3回録ってそのままレッスン室移動って感じだな」


「…2〜3回録ってそれがもう完成になるんだ…」


「まあ、ここまでもう来てるし心配はいらないだろ」


「そうそう♪

心配といえばダンスくらい?

今日振付師の人って来て……」


楽しそうに話していた流衣の言葉がぴたりと止まる。

…?


「……冷さん、竜、振り付けって…?」


「……あ」


「…?」


3人の中で何かが繋がったらしく、3人とも動きと言葉が止まる。

…振り付けといえば…あ。

なんとなく、頭の中で振り付けを考えると一つの答えに行き着く。


「…歌詞?」


「そう、歌詞!

昨日出来たばっかってことはもう今日考えてたの間に合わないだろうし…?」


「流衣、ちょっと落ち着け」


「振付師の人にだってまだ歌詞途中だって話してあるから」


「…あ、そっか。

……良かった〜…」


「ただ」


「……ただ…?」


「今日踊りながら覚えろって」


「…!!」


「…踊りながら、って教えてもらう中覚えて踊れるように、って…?」


「まさか、1日で覚えろなんて…」


言うはずない、と言いかけたところ。

柳原さんのスマホに書かれたメッセージが見える。

《今日覚えた人から帰ってね》

……。


「れ、レコーディングよりそっちのが不安多そう……」


「さっと録ってレッスン室行こっか……」


「……うん」


まだ会ってない振付師さんにちょっとどころではない不安を抱きながら。

レコーディング室へ向かう俺たちだった。

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