7話「stair☆sライブ、本番」

暗くなったステージに、パッと明かりがつく。

…始まった、と思ったと同時にひかるさんが話し出す。


「こんにちは〜!

stair☆sです!」


「みんな、楽しみにしててくれた?」


続いてそう織さんが問いかけると、「待ってた…!」「stair☆sに会いたかった…!」なんて、楽しげな声が会場のあちこちから聞こえて来る。

そんな声を聞いて、ひかるさんと織さんがものすごく自然に目で合図し合って。


「ボク(僕)たちも、会いたかったよ♪」


同時にウインクと、投げキスのファンサをしていた。

……これが、stair☆sのファンサ…。

まだ、曲も始まっていないのに、大きな歓声が上がっていて。


「練習したかいがあったね、ひー?」


「あったね〜…って、それは内緒にしとこうねって言ったよねしーくん?!」


「…みんなを喜ばせられたなら内緒にしなくても良いんじゃないかな、って♪」


「…たしかに…。

でも次のファンサは内緒だからね!」


「次があるって言っちゃってるよ、ひー」


「…はっ…!」


さっきまでの歓声の倍くらいの、たくさんの笑い声が会場を包んでいる気がする。

…ファンサで来てくれたファンを喜ばせて、ちょっと笑っちゃうような会話で会場をあったかくする……みたいな、楽しい空間を作るのがstair☆sのライブが人気な秘密なのかも。


「さて、じゃあひーが会場をあったかくしてくれたから最初の曲に行こうか?」


「そうだね、しーくん!

…最初は、みんなお馴染みのあの曲!」


「…stair☆sで」


「『レヴィ』」


〜♫


2人が曲のタイトルを言うのとほぼ同時に、曲が流れ始める。

…俺たちもレッスンでやっている曲だから、つい踊りそうになるし、歌いそうになるのを堪えつつステージを見る。


「…キミのために〜♪」


…stair☆sのレヴィは、歌と、踊りが完全に合わさってて。

俺たちがレッスンでやって、難しいと思っているところも笑顔で過ぎていく。

それを見ると、やっぱりまだまだだな、と思って。

でも、ああなりたい、とも思う。

……いつか、俺たちも、あんな風に踊って、歌ってみたい。


「あだ名で呼び合っちゃったりして〜♪」


そんな風に、ステージを見つつ考え事もしていると、ひかるさんと目が合った気がして。

スッと指を指されて、ウインク。


「……!」

まるで、考え事なんてしてちゃだめだよ、と言われているみたいだった。

…うん、色々考えるのはライブの後にして、今は思いっきり楽しもう!


「〜君と作る歌♪」


…ステージと、2人を照らすライトを見ているだけで目が追いつかなくなって。

気がつくと、もう1番のサビに入るところだった。


「きっとレヴィ レヴィ レヴィ♪」


「キミへ♪」


サビの、キミへ、の部分で織さんがファンの人を指指して、ハートマークを作る。

…多分、あのファンの人は織さん推しで、うちわを持っていたんだと思う、けど……。

ちらり、とそのファンの人を見ると、その人と、近くの人が倒れそうになっていた。

……。

織さんのファンサって、すごいんだな……。

そんな感じで、織さんひかるさんがファンサをするたびに歓声が上がって、何人か倒れそうになって。

…うん、何人かは多分、倒れてたと思う。

……そして、やっと、一曲が終わろうとしていた。


「ずっと終わらないstair☆sを♪」


stair☆sの2人が歌い終わった後、2人が喋り出すまでの間、ファンの人の「織さん…!」「ひかるくん!」と名前を呼ぶ声があちらこちらから聞こえていた。


「と、いうことで!

stair☆sでレヴィでした!

みんなありがとう〜!」


「この曲、デビュー曲だけど、もうライブの定番になってるよね」


「なってるね〜。

ファンサも、ライブごとに変えてみたりして!」


「…でも、込める気持ちは倍になってるよね?」


「もちろん!

ボクは倍どころか100倍くらいの気持ちで歌って踊ってるよ♪」


「…じゃあ、僕はひーに負けないように120倍の気持ちを込めようかな」


「じゃあ…stair☆sで220倍、だね!」


「…ちなみに今回は何倍?」


「今回は〜…初めての人がたくさんいるなーって思ったから、1000倍!」


「ひー、もうそれだけで今までのライブの込めた気持ち以上になってるよ」


「…あれ、そうだっけ?」


「これからは、もっと気持ちを込めていかないとね?」


「はーい、頑張ります!

ってことで、ちょっと早いけどゲストの紹介をしまーす!」


「薄々気づいてる人もいると思うけど、さっそく呼ぶね」


「せーのっ」


「『escalier』!」


stair☆sの2人が呼ぶと、袖から夏苗さん、由さんが出て来る……って言うより、飛び出て来てる…?


「こんにちは、escalierでーす!」


「escalierの由です」


「しきくん、元気だった〜?」


「さっき会ったときも言ったけど元気だよ」


「まあさっきリハやってたから……って、もうちょっと感動の再会っぽいのを期待してたんだけどな…?」


「まあまあ、2人とも元気ってことで!

もちろん、ボクも元気だよ〜」


「俺も元気です。

…って、そろそろ紹介と本題に行きませんか?」


「あ、そうだった。

…えっと、じゃあ改めて。

オレたち、escalierです!」


「今日はstair☆sとの合同ライブ…じゃなくて、ゲスト参加してます」


「でも、気持ちは1000倍なので!」


「あっ、さっきのボクたちの使ってる…!

しーくん、ボクたちは2000倍でいこうね!」


「うん、escalierに勝とうね?」


「そこ、別に競ってないので1000倍上乗せしないでください」


「そうそう、まだオレたち自己紹介してないし!

改めまして、escalierのリーダー!

古篠由です!」


「あ、じゃあ俺帰りますね、お疲れ様でした」


「待って由くん、冗談だから…!!」


「偽物の古篠由です」


「めちゃくちゃ根に持ってる…!

嘘です、リーダーの緋色夏苗です!」


「えー、改めて、古篠由です。

こんな俺たちですが、歌はちゃんと歌ってくれると信じてるので、よろしくお願いします」


「頑張ります!

…えーっと…じゃあ、escalierで!」


「『ロマンチックホワイトandブルー』」


…出てきた瞬間は、さっきの歓声を上げていた夏苗さんそのままで。

やっぱり明るくて元気な人なんだなーと思っていたけど。

……歌が始まると、一気に雰囲気が変わって。

escalierの、緋色夏苗さんになっていた。


「1枚のチラシ♪」


「繋げた2人の出会い♪」


「偶然が重なって♪」


「少しずつ仲良くなった♪」


同じく、隣で歌って踊る由さんも、さっきの会話だとちょっと怖そうなのかな?なんて思っていたけど。

曲が始まると、かっこいい中に可愛さがあるっていうか、親しみやすい感じになっていて。

……これがescalierってユニットなのかな、とちょっと思った。


「歌を歌おう♪」


サビに入ると、振りがさっきまでとは違って、優雅で、大切なものを扱うような、繊細なものになっていって。

歌詞と、声ととても合っていた。

…この曲は、どっちかと言うとバラードっぽい、落ち着いた曲だからファンサは少なめで。

でも、その分ダンスに魅入ってしまう、良い曲だった。


「キミといる時間♪」


2番になると、さっきとはまたダンスの雰囲気も歌詞も変わってきて。

…さっきまでが知り合いとか、友達になりたて…って感じだとしたら、2番は親友って感じがした。


「キミへ贈ろう♪」


「…!」


2番の、サビに入る時。

さっきまで客席の真ん中あたりを見ていた夏苗さんとふと目があって。

…ウインクと、ハートマークのファンサをもらった…気がする。

…たぶん。

穏やかな曲だからこそ、ファンサが印象に残るんだと思う。

…この曲を聞くたびに、今日のファンサを思い出しそう…。

そんなこんなで、ファンサに浸っていたらあっという間に一曲が終わって。

…体感は5分だけど、1時間に近いくらいは経ったんだと思う。

escalierの曲が終わると同時にステージにstair☆sが出て来る。


「escalierでロマンチックホワイトandブルーでした〜!」


「わー!って、ひかるくんそれオレのセリフ!

予定より早く出てきたなーって思ったら、セリフを取るために…??」


「…だったら、もういっそ一緒に踊っちゃえば良かったのに…」


「由くんの突然の裏切りに泣きそう。

泣いて良い…?」


「どうぞ」


「うわーん……ってめちゃくちゃ恥ずかしいし泣きません!

……って、しきくんどうかした?」


「夏苗って、こんなに歌って踊れるんだな、って…」


「オレアイドル!

かなり前から歌って踊ってるからね?!」


「……そうだったっけ?」


「もうやだオレ帰る…!!」


「…と、まあ茶番はこの辺で終わりにして〜」


「…茶番って言った…!」


「次はなんと、ボクたちstair☆sと、」


「俺たちescalierで歌う新曲になります」


「可愛くて、楽しい曲だからお楽しみに♪」


「お楽しみに!

ってそうそう、衣装チェンジもあるからね!」


「…夏苗、ちゃんと下に衣装着てる?」


「着てる着てる!

早着替えしようか?」


「あ、大丈夫です」


「早い!」


「ってことで、2人が着替えてる間にボクたちはおしゃべりしてよっか」


「何話しますか?」


「えーっと…あ、じゃあ最近ハマってるダンスとか!」


「最近ハマってるダンス……?」


「ボクはこんな感じ!」


そう言いつつ、ひかるさんがちょっと距離を取って。

バク宙とよくわからないけどかっこいいステップを踏んだ。


「おお〜…」


「よし、成功〜♪」


「ちなみにリハや練習では…?」


「10回に3回くらいかな?」


「さすが、本番に強いひかるさん」


「ひかるくんで良いって〜♪」


「…じゃ、じゃあひかる……くんさん」


「くんさん…」


と、いい感じのところで着替えの終わった夏苗さんと織さんが登場して、歓声が上がる。

…ちょっとチャイナっぽい…ような…。


「じゃじゃーん、新衣装でーす♪」


「可愛い?」


「天使です!」


「ありがとう♪」


「ってことで、ボクたちの着替えの間はしーくんと夏苗くんに交代しまーす!

よろしく!」


「了解。

ゆっくり着替えて来てね」


「5分で戻ります」


「由くん、流石にそれは無理じゃない…?」


「…ってことで…。

何話す?夏苗」


「しきくんの素晴らしさについて…?」


「…は、今度escalierのライブでやってもらうとして…」


「じゃあ…。

お互いの好きなところ?」


「あ、いいうちわだね。

ありがとう」


会話のテーマもうちわにあるんだ…、なんて思いながらステージと客席を見る。

…こうやって見ると、結構色々なうちわがあるんだなー…。


「えーっと…しきくんの好きなところ、いくつまで言っていい?」


「1つで」


「存在が天使」


「ひー、由くんそろそろ着替え終わった?」


「待って待ってなかったことにしないで?!」


「……それ以外は?」


「…え、笑顔が好き…」


「thank you♪」


「うっ………」


と、こっちもいい感じ(?)な、ところでひかるさんと由さんが戻って来て……袖に戻っていく。


「待って2人とも戻らないで…?!」


「ごめんね、夏苗は気にしなくていいから♪」


「しきくんの笑顔が……致命傷に……」


「じゃあ、夏苗は次の曲見学してる?

可愛い振りあるけど」


「よし今すぐやろう!」


「はーい、じゃあ改めてボクたちの新衣装でーす!

パンダと、チャイナっぽいイメージ♪」


「ひかるくんさんはそういう服似合うね」


「あ、まだ続いてるんだ?

戻していいよ〜」


「じゃあ、ひかるくん」


「!」


「どうせなら、呼んでみたいと思って…」


「由くん大好き♪」


「はい、オレも由くん大好き!」


「もちろん、僕も好きだよ♪」


「……急な告白困るんですけど…」


「はい、じゃあみんなかいさーん!」


「って、いつも脱線しちゃう気がするんだけど…。

ほんとに改めて!

曲紹介と衣装見せをしまーす!」


「じゃあ、まずは僕から。

パンダとチャイナが全体のイメージだけど、僕の衣装は袖が長めです♪」


「可愛い…!」


「次は、由くん♪」


「はい。

俺の衣装は…。

他の人よりシンプルな感じになってます。

動きやすいというか」


「ダンスが映えそう!」


「次は…ひかるくん」


「はーい♪

ボクの衣装はなんといっても可愛いパンダのしっぽ!

みんなにもついてるけど、ボクのが1番可愛いと思ってまーす♪」


「可愛いよ」


「しーくんありがとう♪

じゃあ、最後は夏苗くん!」


「はーい。

…って、もうほとんど言われ尽くしちゃった感じがするんだけど…。

オレの衣装のおすすめポイントは耳……だと可愛すぎるししきくんの方が似合ってるので!

模様です!

遠いと見えにくいかもしれないんだけど、キラキラしてます!」


「はい、ということで衣装のおすすめポイントでした。

この後のダンスで注目してみてください」


「続いては曲の紹介!」


「曲名からいっちゃおうかな、せーのっ」


「『ラビマオ』!」


「この曲は曲名の通り、うさぎとマオ…猫がモチーフになってます!」


「…なってるはず、なんだけど、衣装はパンダとチャイナ風なんだよね?」


「その辺は歌詞にもヒントがあるので、お楽しみに!」


「まだまだ紹介仕切れてないんだけど、時間が残り少なくなって来たので…」


「曲に移ります」


「stair☆s、escalierで!」


「『ラビマオ』」


「ラビラビ×マオマオ♪」


「笑顔にしよう♪」


…曲が始まって、4人が歌い出すと、織さんの言っていた可愛いダンスの意味がわかった。

ラビラビに合わせてうさぎのポーズ。

マオマオに合わせて猫のポーズ。

その2つの後に、4人揃っての笑顔。

…これは、stair☆sもescalierも"可愛い"ダンスだ。


「!」


しかも、さっきまでescalierの曲でファンサが少なかったのが嘘のようにファンサがたくさん飛んでくる。

曲のイメージのうさぎ、猫のポーズから、ハートやウインクまで。

曲調に合わせてファンサを変え、うちわを見つけたらそのファンサをする。

…これがアイドルで、ファンなんだな、と改めて思った。


「ラビラビ×マオマオ♪」


サビまでしっかりファンサをもらって、気がつくと曲は終わりに向かっていて。

…ライブが終わるのが、寂しい気持ちになっていた。


「…新曲、無事に踊り切ったね!」


「お疲れ様」


「って、なんか終わりみたいな雰囲気になってない?」


「その通り、もう最後の曲ですよ」


「えっ………」


「あはは、うん、ボクたちも寂しいけどね。

…また、次があるから!」


「次は2000%…ううん、4000%でみんなに会いに行くから♪」


「オレたちも、負けないようにライブをするから、また機会があったら遊びに来てね♪」


「…でも夏苗、織さんいないと静かだから……」


「ちょっと寂しいかもしれないね…」


「そんなことないから!

しきくんいなくても元気だし声出してくよ!」


「ほんとに?」


「ほんとほんと!」


「じゃあ、信じて。

次のescalierのライブは2ヶ月後、会場はここです!」


「…ここ?」


「ここ。

なんと、時間も一緒」


「今度はボクたちがゲスト……かもね?」


「時間と余裕があったら遊びに行こうかな♪」


「ってことなので、お楽しみに!」


「…あと、ボクたちstair☆sからもお知らせでーす!」


「毎月恒例の地方ミニライブが明後日から行われます♪

場所は…」


「灯雪、旗白、大井瑠!

もしかしたらまだ増えるかもしれないから、詳しくはホームページをご覧ください!」


「時間も、このライブが終わってから記載されるのでお楽しみに♪」


「流石にミニライブにはオレたちは出ないけど、遊びには行きたいな〜と思ってるので、みんなも行こう!」


「stair☆sのミニライブでしきくん!!!とか叫んでる人がいても近づかないようにね」


「由くん?!」


「…と、いうことで!

ものすっごく寂しいしボクたちも終わって欲しくないけど!」


「今回の、僕たちのライブ、『stair☆sライブ2019』はこれで終わりになります」


「ここでみんなと会えたこと、みんなにもらった笑顔、歓声、絶対忘れないからね!」


「みんなも、僕たちに会えたことを忘れないでね♪」


「オレたちも、みんなに会えて最高に楽しかったよ!」


「また、ライブで」


「今日はライブに来てくれて本当にありがとうございました!

またね!」


ひかるさんのその言葉と共に曲が流れて、みんなが袖にはけていく。

…最後まで、4人が手を振ったり、綺麗な礼をするのを見ながら、ライブの余韻に浸る。


『ー本日は、ご来場いただき誠にありがとうございました。

落とし物、お忘れ物のございませんよう………』


最後のアナウンスが流れると、客席がザワザワとし始め、退場が始まった。

俺たちはもちろん退場することはないんだけど、ぼーっと退場風景を見ているわけにもいかず。


「雨月、雪月。

そろそろ移動するぞ」


という、竜の声に合わせて、退場の方向とは逆に、動き出すのだった。

0コメント

  • 1000 / 1000