5話「竜の曲とICE」

〜♪


静かなピアノの音が響いて、竜の曲が始まった。

…優しくて、温かくて、親しみやすくて、安心するような曲。

これに、流衣の歌詞がつくんだっけ…。


「〜♪」


気になって流衣の方を見ると、もう歌詞がついている曲なのか、小さく歌っていて。

楽しそうだった。


「これが、竜の曲…」


「優しくて、竜みたいな曲だね」


「……」


「?

織さん?」


「これが、竜さんの曲…。

僕たちの作る曲とは、全然違うんだよね」


「まあ、そりゃaquaとstair☆sだし…。

…あ、もしかして、しーくん曲作りたくなってきた?」


「…少しね」


「次の新曲、まだ期限あったよね?」


「…うん、あったけど…?」


「ここで、ちょっと作っちゃう?」


ぴたり、と竜の曲が止んだ後。

ひかるさんの、楽しそうな声が響いた。


「……stair☆sの、曲作り…」


ぽつり、と竜が呟いて。

いつの間にか、視線はひかるさんと織さん、…stair☆sに向いていた。


「聞きたい?」


「…もちろん」


「俺も!」

「…えっと、もし良ければ、俺も聞いてみたいです」


「…だって、しーくん?」


「……。

しっかりしたものは、作る気はないよ」


「…それでも」


「……、わかった。

ただ、聞くのは途中までで。

続きはCDを買って」


「…わかりました」


…そう言って、竜が譲った電子ピアノの前の椅子に織さんが座る。

そして、いつの間にか移動していたひかるさんが隣に立って。

……竜の曲とはまた違う、綺麗な曲が流れ始めた。


〜♪


一音一音、大切に、大事に歌うように紡がれていく。

ピアノを弾く織さんも、隣で楽しそうにそれを聴きながら、鼻歌を歌うひかるさんも輝いていて。

俺たちとは、またレベルも経験も違う人たちなんだな、って思った。


「……」


「……。

すごいね、stair☆s」


無言で聞き入る中、俺の隣で聞いている流衣が言う。

…俺も、雪月も無言で頷いて。

すごい、すごいけど、いつか追いつきたい。

そんな風に、思った。


「はい、ここまで」


「やっぱり、しーくんの音、いいね」


「ひーも楽しそうに鼻歌歌ってたでしょ」


「でも、それでメロディ変えるしーくんじゃないんでしょ?」


「…まあ」


「前回はボクが作ったし、次はしーくんの番って思って、ボク結構静かにしてたんだから」


「……静かっていうか、…いつもに比べたら静か、…かな?」


「…これに、歌詞がつくんですよね」


「そう。

…まあ、今回はひーがやるかもしれないけど」


「!

おっけー♪」


「…stair☆sって、いつも交代で作曲してるんですか?」


「…だいたいは。

僕もひーも、ある程度作っておくと経験になるから」


「……経験に…」


「君たちも、そのうち竜さんと一緒に曲作ってみたら良いんじゃない」


「…はい」


「まずは、作詞からとか?」


「あ、じゃあ流衣に学ぶ!」


「え、えーっと…。

俺もいつも竜に聞いてイメージ合わせてから書いてるから…」


「そう、じゃあ竜さんと流衣さんが作っているところを見るところから、だね」


「…そっか、まずは見てから……」


「次、作る時は一緒に隣で見ていたいな」


「も、もちろん…!

いやでも大丈夫かな…」


「流衣、今から緊張しなくても、まだaquaのデビュー曲もまだ……あ、なるほど」


「デビュー曲、どうせならみんなで作ったら?

歌詞とか一緒に考えて♪」


「…そんなにすぐ、良いのかな」


「ダメって言わないでしょ、流衣さん?」


「い、言わない…!

いいよ、2人なら。

一緒にデビューにぴったりの曲を作ろう!」


「…!

うん…!」


ガチャ


「…お、ちょうど一通り終わったか?」


「……あれ、柳原さん…?」


「さっきまで、ここにいたような気がしてたんだけど…」


「まあ、ちょっと色々あって?

悠希と相談してた」


「えっと、おれから軽く説明しますね。

…aquaの皆さん、もし良ければ次のstair☆sのライブ、観に来ませんか?」


「……えっ…?」


「デビュー前だからaquaのメンバーのことを知っている人は事務所の人だけ。

加えて、メンバー同士も今知り合ってちょっと仲良くなった。

…となれば、ライブに行くのも大丈夫だろ?」


「…大丈夫、ってえ、そんな簡単に…?」


「いや、簡単じゃないからな。

さっき相談したって言ったろ?

それについて、交渉してたんだよ」


「…どんな?」


「内緒。

ま、行けるのは確定してるから。

しかも、関係者席のいいところ」


「…関係者…って、俺たちのこと、バレません…?」


「当日、ICEも呼ぶように言ったから、きっと大丈夫だろ。

あ、念のため物販とかはスルーしろよ」


「…が、頑張ります」


「…aquaが次のライブに、ね」


「しーくん、嫌だった?」


「嫌じゃないよ。

…まあ、自己紹介の段階だったら断ったかもしれないけど」


「あー、やっぱり……」


「…でも、竜さんと流衣さんの曲を聞いた今なら、来てもらいたいかな、って思った」


「!」


「…当日、楽しみに待ってる」


「ありがとうございます」


「と、当日、俺何着ていけばいい…?

いい服持ってたかな…」


「いや、そんな緊張しなくても…」


「え、しない…?」


「いや、する…。

って、俺もしかしてstair☆sのライブ観に行くの初めてかも…」


「へえ?」


「あっすみません…!」


「流衣…」


「まあまあしーくん。

ボクたちのライブは観に来るの大変だから…」


「…まあ、そうだね」


「すごく、楽しみにしてます」


「…そう」


と、織さんが言った後。

控えめにドアのノック音が聞こえた。


「…誰かな」


「…もしかして、また先輩が来た、とか…?」


「そんなに何人も来たら色々持たない……って、…もしかして?」


ドアが開いた先にいたのは、さっき話にも出ていた『ICE』のメンバーだった。


「お邪魔しまーす!」


「陽、静かに…!」


「あれ、レッスンはしてないみたい…?」


「…だな」


賑やかに入って来た1人と、多分双子の人。

そして、背の高い人に優しそうな人。

みんな、テレビとかで1回は見たことがある人だった。


「あれ、ICEのみんなだ」


「…どうしたの」


「あ、こんにちはー」


「…俺たち、寮についての話を聞いた後に帰ろうと思ってたんですけど…」


「陽が、音が聞こえる!って走って行っちゃって…」


「お邪魔してしまってすみません」


「あ、そうだったんだ。

…じゃあ、ついでにaquaとの初対面しちゃう?」


「aqua?…って、あ、初めまして」


「は、初めまして…!

えっと、ICEの?」


「あ、そうです。

…ICEの、白下奏です」


「俺はICEの蒼花陽!

こっちの春の、双子の兄!」


「あ、はい。

同じく、ICEの蒼花春です。

よろしくお願いします」


「…ICEのリーダー、泊色浅葱です。

よろしくお願いします」


「あ、じゃあ俺たちも…。

aquaの、春野流衣です」


「同じく、aquaの柊雨月です!」


「aquaの、柊雪月です。

雨月の双子の兄です」


「aquaのリーダー、木海竜です。

よろしく」


それぞれ、俺たちが挨拶をした後。

雑談でもする?ってことになって、急遽、さっき使ってた会議室Dに戻って来た。


ガチャ


「えっと、じゃあとりあえずユニット順でー…。

ボクたちがここ、aquaがそこ、ICEが正面…で、いいかな?」


「はい」


ひかるさんの言うように座って、…少しだけ沈黙が訪れて。

それから、ICEの奏さんが話し始めた。


「…えっと…。

俺たちもまだアイドルになって長いわけじゃないから、ちょっと話をしたいなって感じなんですけど…」


「はい」


「まずは、話しやすい…と、信じて、ユニット名の由来とか聞いても良いかな?

…出会いは、話しにくいと思うし…」


と、言いつつちらっと浅葱さんの方を見る奏さん。

…出会いが話しにくい、…うん、まあ確かに…?

俺たちも、気軽に話せるような出会いかと言うと、ちょっと違うかもしれない。


「ユニット名の由来…って言うと、やっぱり柳原さんだよね」


「…ああ」


「柳原さん…ってマネージャーの?…ですか?」


「ああ、敬語はなしで大丈夫。

…俺たちも、なしで良ければ…ですけど」


「もちろん。

aquaとICE、1年違うだけの新人アイドル同士だからな」


「浅葱兄、まだaquaはデビューしてないからちょっと早いんじゃ…」


「デビュー前に知り合うなんて奇跡みたいなものだろう?」


「…うーん、確かにそうかも?」


「俺は敬語じゃない方が話しやすいかなぁ。

気軽に話しかけやすくなるし」


「…じゃあ、お言葉に甘えて…。

俺たちのユニット名は、柳原さんの発案なんだ」


「そうそう。

俺たち、ユニット名決めるって難しいなーって悩んでたら柳原さんがいい感じのをくれて」


「aqua…とか、ってね」


「…微妙なところを繰り返すなよ…」


「いやいや、でもそれで決まったんだし!」


「…俺、aquaって決まってから、ちょっと嬉しくなったんだ」


「あ、わかる。

俺も、うわ、アイドルっぽい!ってわくわくして」


「…うん、俺も」


「…ああ、俺も」


「だから、冷さんには感謝して……って、冷さん…?!」


「急に褒められまくったら照れるだろ、普通」


「レアだな」


「写真撮らなきゃ…」


「…お前ら……」


「ま、まあまあ。

それで、4人はaquaになった後、どうしたの?」


「どうしたって…ああ、カフェに行ったな」


「…行ったねぇ…」


「抹茶パフェが美味しかった!」


「あそこ、季節のフルーツパフェもおすすめだよ」


「…美味しいですね」


「stair☆sさんと行ったの?」


「いや、たまたま…?」


「近くにいたみたいで」


「…あ、そうだ」


「?」


パフェの話をしたところで、思い出した。

ICEの人と会ったら、したいことがあったんだ。


「LEENE、交換しない?」


「あ、確かに」


「…ICEの4人とは僕たちも交換してなかったね」


「あ、確かに、そうですね」


「せっかくだし、ここにいる全員で交換して写真も撮っちゃう?」


「あ、いいですね!」


…数分して、LEENEの交換が終わった俺たちは机を寄せて、並んでいた。

1番前にstair☆s、次にICE、後ろに俺たちaqua。

…俺たちが後ろだと顔が見えにくいからって台を借りて、顔が見えるようにして。


「じゃあ、撮るぞー」


「柳原さん、せっかくだから俺たちの横で!」


「じゃあ、悠希さんはボクたちの横!」


「え、おれたちまでいいんですか?」


「もちろん」


そう言って、タイマーにしたスマホを置いてマネージャーの2人も入って。

はいチーズ、と誰かが言うと、…ぴったり揃った笑顔が写真に写った。


「お、いいじゃん」


「写真、せっかくだし全員に送りますか?」


「グループ作る?

stair☆s & ICE & aqua…とかで」


「名前、長くない?」


「頭文字を取って、sIa…とか」


「シア…?」


「i だけ大文字なの、俺たちっぽいね」


「じゃあ、sIaで良いですか?」


「さんせーい」


「俺も!」


「…いいんじゃない?」


「うん、俺も賛成」


「よし、じゃあこうして…人数、多いですね」


「10人、いるからねー…ってあ、マネージャー忘れてた。

2人も入って入って〜」


「あ、はい」


「ありがとうございます」


「…よし、これで完成!」


…そうして、作られたsIaというグループ名はちょっとだけ輝いて見えた。


「あ、ついでにこれも載せておくね!」


「ああ、さっきひーが書いてた…」


「なんですか?」


「可愛い後輩の好きなものリスト!

ICEの分も作ってあるから、また見てね〜」


「俺たちの分も…。

ありがとうございます、ひかるさん」


「自己紹介したけど、好きなものまでは言ってなかったしね。

また機会あればもうちょっと話が出来るんだけど…」


「それなら、次の僕たちのライブでいいんじゃない?」

「…あ、そうだね」


「aquaさんも行くの?」


「うん。

さっき、招待してもらって」


「関係者席、だよね。

隣で、一緒にトップアイドルのライブが観れるんだね」


「ICEのみんなって観たことあるの?

stair☆sのライブ」


「…実は、俺初めてで」


「…俺たちも、悠月街にはアイドルのスカウトを受けてから来たので…」


「つまり、みんな初めてみたいなものってことだね」


「初めての人に観てもらうのって楽しいしわくわくするよね、しーくん♪」


「そうだね。

…全員、僕たちstair☆sのファンにしてあげる」


「…はい、楽しみです」


「stair☆sのファンになったら、俺グッズ欲しくなるかも」


「それはみんな欲しくなるんじゃない?

…物販だと目立つだろうし、どうにか買えないかな」


「そんなの、ボクたちがプレゼントするのにー」


「してくれるんですか?」


「もちろん!

って、まあ聞いてみてなんだけど…」


「大丈夫ですよ。

stair☆sのグッズは毎回完売が続くとは言え、見本は届きますし」


「み、見本もらうんですか…?!」


「流石にそれはないけど。

…全員同じものを、ってことじゃなければ用意してもらえるんじゃない」

「…じゃあ、俺リストバンド欲しいです!」


「…あ、俺も!

stair☆sのって黒と赤でかっこいいから、普段でも使えそうだし」

「…リストバンドが2、と…」


「俺は…タオルかな?

同じく普段から使えそうなので」


「あ、それ俺も思ってた。

タオルや帽子…キャップがいいよね」


「奏さん、キャップでも良いですか?」


「あ、はい、大丈夫です」


「ありがとうございます。

タオルが1にキャップが1…」


「…あ、ペンライトってどうなるんですか?」


「stair☆sの公式ペンライトを人数分用意するつもりです。

…そこはさすがに全員分用意しますので!」


「…良かった…!

ありがとうございます!」


「ライブでペンライトってなくても大丈夫だけど、やっぱり欲しくなっちゃうよね」

「関係者席だしね」


「それで、…あとはリーダーのお2人、どうします?」


「…ああ、そうだな…。

竜は?」


「…悩んでる。

リングライトか、…バッグとか」


「すごいとこ行くね、竜さん」


「stair☆sのエコバッグ、使いやすいって好評らしいよ」


「そうなんですか?

…どうしようかな…」


「奏さん、エコバッグ欲しいんですか?」


「あったら便利だな、って思っちゃって…。

でも、浅葱が選んでくれたらそれ使うことも出来そう…」


「ああ、じゃあエコバッグで」


「わかりました」


「それで、竜は?」


「……リングライトで」


「2つつけます?」


「…え」


「stair☆sのどっちかを選ぶなんて、しないよね?」


「……」


「どっちが選ばれても、僕たち客席見る時気になると思うけど」


「……両方で」


「わかりました!」


…ということで。

stair☆sのライブ当日は、それぞれグッズを持って行くことになった。

悠月星華

ゆう月の創作をまとめたサイトです

0コメント

  • 1000 / 1000