9話「曲作りとタイトル決め」

ガチャッ


「失礼しまーす」


「今日の場所、ここで合ってる…かな?」


学校終わりに柳原さんから電話があって、急遽変更になった今日のミーティング部屋。

確か、会議室Aって聞いたような…。


「お、来たな?」


「いらっしゃい、2人とも」


「…あれ、パソコン?」


「ああ、ちょっとな」


入ってすぐ、竜や流衣の前にあるパソコンについて聞くと、そんな感じの返事が竜から返ってきて。

…パソコンを使うってことは、stair☆sとかのDVDでも見る…とか?


「じゃ、雨月と雪月はここな」


「…真ん中?」


「ちょうど椅子が2つある、けど…」


「まあ、細かいことは後で説明するから、とりあえず座って座って〜」


「じゃあ、失礼しまーす?」


「この並び、今までと違ってちょっと緊張するかも」


「ま、やることはもう1つだから。

竜、よろしく」


「ああ」


「…?」


「竜がパソコンを操作…ってことは、もしかして?」


「まあ、それは聞いてのお楽しみ、ってことで」


「はーい」


なんとなくの予想をしつつ、パソコンの方を見る。

‥しばらくすると、竜が作った…と思う曲が流れてきて。


「!

俺、これ好きかも」


「…うん、俺も…。

優しくて、いい曲だね」


「だって、竜?」


「…にやにやするな、流衣」


「いやだって竜の全力を込めた曲が褒められたら嬉しいでしょ♪」


「普通、嬉しいのは竜だと思うけどな。

…で、2人が予想してる通り」


「…やっぱり?」


「ああ、これがaquaのデビュー曲…の、予定だな」


「予定、…って?」


「まだ、歌詞がないからね。

歌いにくいとか、歌詞が入れにくいとかあったら変えることも出来る…って話」


「歌詞…って、もしかして俺たちが一緒にやるっていう?」


「これに、歌詞を…」


「そんなに気負わなくても大丈夫大丈夫!

俺も一緒にやるし、合う合わないはやってみたらわかるから♪」


「ああ。

…今回は、"aqua全員で"作詞を担当するからな」


「…って、竜も?」


「4人で一緒なら、心強い…かも」


「でしょ♪

あ、ちなみに、冷さんは応援&差し入れ係でーす」


「いや、流衣勝手に決めたな?」


「甘いもので」


「早い早い」


なんて、いつも通りな会話をしつつ。

せっかく会議室で聞いたからとホワイトボードを出して来て案出しをすることになった。

…なったんだけど、…大丈夫かな…。


ガチャ


「じゃ、適当に買って来るから」


「あ、俺甘いものよりしょっぱいものの方が食べたいかも」


「…俺は、なんでも」


「雪月、冷さんなら好きなもの買っても大丈夫だから好きに言っていいんだよ?

ほら、竜なんてリスト作って渡してるし」


「…と、あといちご大福と…」


「多い多い多い。

それ以上追加したら竜にはブラックコーヒーにするからな」


「……差し入れ係なのに?」


「差し入れの量を超えてるだろ、これは…。

『サクユマ特製チョコパフェ、サクユマの自信作いちごたっぷりパフェ、贅沢卵のフワトロプリン、1度食べたら忘れられないもちもち食感の白玉入り抹茶クレープ、チョコがたっぷり1.5倍入ったチョコバナナクレープ、フルーツたっぷりパンケーキ&タルト、本気でなめらかなプリン』に、いちご大福と追加だからな?」


「さすが竜…」


「あれを見たら、逆に申し訳なくなりそう…」


「大丈夫、冷さんあれ全部却下してるから」


「…さすが…」


「で、さっきから会話聞こえてたけど雪月食べたいものあるって?

竜の分却下したから余裕はあるぞ」


「…えっと、…」


「じゃあ、俺やっぱり本気でなめらかなプリン!」


「!」


「雪月は?」


「…じゃあ、チョコドーナツ、で…」


「ん、了解。

竜、1つなら入れて良いからめちゃくちゃこっち見てるのそろそろやめろよ…?」


「じゃ、サクユマの自信作いちごたっぷりパフェ」


「…1番高いやつ選んだな?

アレ、売ってる時限られてるから、なかったら普通のプリンにするからな」


「…ああ、それで」


「…なんか、こういうところ見ると竜ってちょっと可愛いかも」


「そうなんだよね!」


「流衣、イキイキしてるね」


「竜が可愛いって言っても周りは全く信じてくれなかったから…」


「ああ、確かに…」


「竜って、ちょっとクールな感じするよね」


「素があんな感じだけど、表情とか口調でそれを完璧に隠してるから、竜の本性…っていうか素の姿?が伝わりにくいんだよね」


「もっと普段からあんな感じだったら親しみやすい感じになるのに…」


「別に、親しみやすくなる必要はないだろ」


「いや、アイドルになるんだからね…?

俺甘いもの大好きです!って張り紙しようか?」


「…そんなことされたらアイドル辞めるからな」


「って言いつつ、未来では甘いもの好きなアイドル竜がいたりして…」


「それはこれからの俺たち次第…かもね」


「竜が甘いもの好きですって言えるように頑張っていかなきゃだね!」


「…って、本題忘れてないか?」


「…本題…。

あ、デビュー曲!」


「…本気で忘れてたな…」


「…えっと、とりあえず、柳原さんが帰って来るまでに各自案を出す…って感じかな」


「そうだね。

1人1つは出したいところだけど、無理して出しても良い歌詞は出来ないし…。

入れたいものを並べるかイメージ決めちゃうか…」


「イメージを決めた方が出しやすい気はするな」


「じゃあ、俺たちがアイドルになるまで…とかは?」


「…雨月」


「例えば、俺と雪月は2人で路上パフォーマンスしてた…とか」


「俺がアイドルになりたかった…とか?」


「俺は…ただ曲を作ってたな」


「いやいや、竜のはただじゃないからね?

…じゃあ、そんな感じでちょっとずつ進めていこっか」


…と、言ってから数分。

竜や流衣からの質問に答えたり、逆に俺たちから2人に質問したりして、…なんとなく、全体が出来てきた気がする。


ガチャ


「お、進んでるな」


「冷さんおかえ……すごい大荷物じゃない…?」


「冷蔵庫入れるの手伝います…!」


「あ、俺も!

って、冷蔵だけじゃないっぽい…?」


「早めに事務所に着いたんだけど、…stair☆sとescalierに会ってな」


「…ってことは、先輩からの差し入れ…?」


「そういうこと」


「あ、これメッセージついてる。

『曲作り頑張って♪

ひかる』

…ひかるさんだ」


「こっちは夏苗さん…って、飴…?」


「撮影の合間に食べる用で買ったやつらしい。

…で、これが俺が買ったやつ」


「…!

冷」


「良かったね、竜♪」


「さっき言ってたメモのものにプラスして…あ、これカステラ?」


「水羊羹もある…」


「水羊羹ってチョイスがこう…」


「じゃ、流衣はなしで」


「冗談だって…!」


「って、これが歌詞か」


「まだ仮、だけどね」


「俺と、雪月のこと、竜と流衣のことを入れたいなって思って!」


「へえ。

…サビが空白だな」


「そこは、これから詰めるところ!

ファンの人への気持ちを書きたいねって話になって…」


「あ、一つ浮かんだんだけど…」


「なになに?」


「メモ取る」


「え、えっと…。

stair☆sのライブに行った時に、魔法みたいだな、って思って」


「…魔法、か」


「おしゃれ〜♪」


「ずっと忘れない、とか、ずっと一緒…みたいなのとかも良いなー…って思ったんだけど」


「あ、それいいね。

aquaは永遠!みたいなのとか♪」


「永遠…」


「よく考えたら、ずっと一緒も永遠みたいなものだよね」


「…あ、確かに」


「なら、ファンに向けてとaquaに向けてで変えるとか」


「…!」


「俺たちに向けて…。

…でも、ちょっと恥ずかしくない…?」


「散々、ずっと忘れないとか言っておいて…」


「い、今更かなー…とも思ったけど、俺たち宛てだと恥ずかしい気がするって…!」


「…俺も、ちょっと恥ずかしいかも」


「俺たちって思うから恥ずかしいんだろ。

aquaにすれば、少しは恥ずかしさが紛れる」


「…かなぁ…」


「あ、俺は少し恥ずかしさなくなったかも…。

…じゃあ、今までのちょっと恥ずかしくなりそうな言葉とかもaqua宛てにしたら…」


「書きやすい…かもね?」


「流衣ってこういうの慣れてる感じ?

なんか、余裕そうっていうか…」


「うーん…。

余裕ってことはないけど、そこまで恥ずかしい感じはしないかな」


「なんで…って、聞いても良い?」


「俺にとっては、ずっと憧れてて、やっとなれたものだから。

ファンに会うって、特別で最高に楽しいことでしょ?」


「…あ…」


「会えて嬉しいって、ずっと会いたかったよって気持ちを込めたいから、恥ずかしいって気持ちはないかな」


「…そっか…」


「ま、この中だと流衣が1番アイドルに憧れてたわけだからな。

…ってことで、ひと段落したっぽいしそろそろ差し入れ食べたら?」


「…あ、忘れてたね…」


「まあ、竜はさっきから1人でひたすら食べてたけどね?」


「さすがサクユマだな…」


「あっ、メモ取ってるの俺たちの歌詞案じゃない…!

サクユマって文字見えた!」


「…バレたか」


「なになに?

…えーっと、『サクユマのプリンは絶品。

毎日3つは食べたい』…3つは食べ過ぎ!」


「じゃあ2つ」


「1つ!

ただでさえ栄養取れてないんだから、本当に倒れるからね……?」


「倒れたらその時で」


「…倒れたりしたら甘いもの一切禁止にするからね…!」


「…善処する」


「絶対気にしないやつだこれ…!」


「もう…。

って、そうだ。

雪月、チョコドーナツあるよ」


「…あ、ありがとう」


「はっ、これもしかしてサクユマのチョコにこだわったチョコドーナツ…?」


「…!」


「いや、竜早い早い。

そうなると思って、きっと冷さんも買って………」


「もう食べた」


「もう食べてる!

って、それならそんな恨めしそうに見なくたって…」


「美味しかったな、と」


「だって、雪月!」


「…うん。

いただきます」


「竜、ちょっと見過ぎ。

圧が強いから後ろ向いてて?」


「…………ああ、わかった」


「とっても名残惜しそう…」


「あ、美味しい…」


「良かった!

これからも、美味しいチョコドーナツ見つけたら食べようね♪」


「…うん」


「あ、そういえば」


「?

どうした、雨月」


「歌詞についてなんだけど、最初もサビで始まる…ってあり?」


「まあ、なくはないしやっても大丈夫だとは思うけど。

…入れたい歌詞があるのか?」


「うーん、入れたいのがあるのもそうなんだけど、最初からサビってなんか印象に残るかな、って。

あと歌うのが楽しそう…」


「…あ、ちょっと分かるかも…」


「サビのところはファンに向けてってイメージで作ってたし、最初に入れるのも良いかもね」


「えーっと、順番どうしよう…」


「サビなら、1番用の歌詞を入れる…とか」


「あ、それ採用!

…って、俺が採用してもいい?」


「もちろん!」


「流衣、早い早い」


「まあ、基本は雨月と雪月、俺と流衣はサポート…くらいのイメージだったしな」


「じゃあ、1番予定のを持って来て…。

1番何入れる?」


「…あ、ここの歌詞入れるとか」


「2番…って確か俺と竜のこれまでを入れるって予定だったよね?

…だったら、サビは雪月の言うところのやつと、この歌詞とか」


「いいな」


「あ、じゃあじゃあ2番の後にaqua永遠!って入れちゃう?

こう、Cメロ?みたいな…」


「いいね。

…あ、じゃあ竜、ちょっと曲流して試しに歌ってみない?」


「ああ」


「(仮)、くらいだった歌詞がほんとの歌詞に…!」


「ちょっと、わくわくするね」


「じゃ、俺は仮歌ってことで動画撮っとくか」


「動画撮るなら、ちゃんと並んでパソコン前で歌わない?」


「…立って?」


「立って!

…あ、でもそうすると机とかがちょっと邪魔かな」


「音程確認とかもあるし、そこまで本格的にしなくてもいいんじゃないか?

お試し、くらいで」


「…あ、そっか。

じゃあ…このままもうちょっと寄って…っと」


「このくらい?」


「お、写りも良い感じだな」


「だって!

…じゃあ、aquaの仮歌…あ、タイトル決めてなかったね」


「せっかくだし、歌詞に合うタイトルが良いよね」


「タイトル…あ、『イロドリキセキ』…とか…」


「採用!」


「だから、早いからな?

…『fantasy color』」


「ファンカラ!」


「略称が早い…。

うーん、タイトル…。

あ、みんなと繋がるって意味で『ring』は?」


「…ring…。

おしゃれ、かも」


「みんなと繋がるって理由からなのも雨月らしくていいね」


「…うん。

…流衣は?」


「うーん、…みんなのがおしゃれで可愛いからシンプルになっちゃうんだけど、『shine』、とか」


「あ、歌詞の輝く…から?」


「うん、そうそう。

みんなが輝くデビュー曲、って意味も込めたいな♪」


「…って、こう見るとみんなどれも良い感じなんだよなー…。

俺、竜のファンカラ好きかも」


「俺は…雨月のring、かな。

シンプルで、意味が曲と合ってそうな感じがする」


「俺は…うーん……。

みんな良いんだけど、並べると雪月のイロドリキセキかな?」


「俺は流衣のshineが分かりやすくていいと思う。

…って、まあバラけるよな」


「ここはもう、最後のaquaメンバー柳原さんに決めてもらおう!」


「…俺もaquaメンバーだったのか」


「冷さんなくしてaquaは生まれぬ!って感じだしね♪」


「aquaの生みの親、だな」


「って言っても、俺1人で決めて良いのか?

…ここは4人で話し合っ…て、バラけたんだったっけ」


「そうそう。

直感でいいなーってやつお願いしまーす!」


「…じゃ、雨月のring。

意味と曲に合ってる感じが好きだったから」


「やった、ありがとうございまーす!」


「…じゃあ、これでタイトルはringに決定!」


パチパチ…


「…あ」


「?」


「どうしたの、雪月」


「ring、ってタイトルに決まったなら、どこかに入れたいな、って…」


「…確かに…!

最後の歌詞とかに入れちゃう?」


「えーっと…あ、こことか。

ring繋がる奇跡〜みたいな…」


「あ、好きかも」


「…ring、って曲名が印象に残りそうだね」


「最後にタイトル、いいな」


「よし、採用〜!

あとは歌ってちょこちょこ変更してく感じで?」


「感じで!

じゃ、最初から!

竜、よろしく!」


「ああ」


ちらっ


「こっちも準備しておっけー。

って、実はさっきの曲名の辺りから撮ってたけど」


「えっ」


「撮ってたの…?!」


「通りでちょっと溜めがあるなと思った…。

まあでも、歴史的瞬間だし…!」


「良いってことで。

じゃ、流すぞ」


「はーい」


〜♪


「…あ、出るのちょっと遅れちゃった」


「もう一回やる?」


「歌詞合わせと音程合わせだし、もう一回やるか」


「…次は、合わせる…!」


「じゃあ、せーのって言う?」


「あ、良いかも。

そしたら出来る気がする…!」


「これで、せーのって言ってそのせーのがズレる未来が見えた」


「…う、ありそう…」


「まあ、そうなったらなったで!

ぶっつけ本番…じゃ、ないけど、いきまーす」


〜♪


「君の声を〜♪」


「魔法をかけよう〜♪」


「うん、最初は良さそう。

…って、これパート分けも後でした方がいいね」


「ああ、確かに」


「とりあえずこの1番は雨月、雪月で歌うとして…」


「〜ずっと一緒に〜♪」


「あー、ここか」


「とか、この後のサビとか。

…この辺、ちょっと歌詞変えるのもありかな」


「歌い終わり次第、また相談するか」


…と、流衣や竜が相談してる中、俺と雪月でだいたい歌って。

1番、2番の歌詞の調節と全体の歌詞分けをまた明日やることになった。


「じゃ、この歌詞を読んで&歌ってみて、また明日変えたいところを相談するって感じで!」


「…あ、曲ってLEENEとかで送ってもらえる?」


「それはもちろん、竜が!」


「LEENEよりフォルダ作って共有した方が早かったから、さっき歌ってた間にやっておいた」


「おお〜…と、ここ?」


「うん、これみたいだね。

aqua『ring』(仮)…って、タイトルまだ(仮)なんだ?」


「明日考えるとまた変わるかもしれないからな」


「タイトル変わったらまたこの最後のところが変わる…ってことだもんね…」


「まあ、みんなで出し合って決めたタイトルだし、変えるってことはないと思うけど、一応…だね」


「あ、歌詞の相談ってLEENEでしても良い…?」


「どうせなら、通話しちゃうとか?」


「時間によって、だな」


「通話したいと思ったらいつでも電話して大丈夫だからね」


「…ありがとう」


「…じゃあ、えっと…これで今日は解散?」


「だな。

また明日」


「明日…か、またLEENEで、だね♪」


「俺、頑張って良い感じの歌詞にしてくる…!」


「大幅に変更入れなくてもそのままリズムも合ってるし、いけるからな」


「無理はしすぎず、気楽にね」


「…うん」


「あ、そうだ。

明日ってまた放課後会議室?」


「ああ、その予定で」


「流石に明日歌詞決めてすぐ振り入れは難しいと思うしね…」


「はっ、そっか振りもあるんだ…!」


「それに関してはまた来週以降、だな」


「?

なんで来週…?」


「歌詞決まったら曲の調節と収録先にやるから…だろ」


「竜大正解。

収録先やった方が良さそうだから、もう予定立ててあるしな」


「しゅ、収録ってなんかこうアイドルっぽい…」


「もうアイドル、だからね…」


「ってことで、明日に備えて解散!

またね」


「はーい、また!」


…と、まあそんな感じで。

第一回歌詞会議はさくさく進んで、だいたいが決まるというところまでいって。

…収録ってどんな感じなんだろ、とか、歌ったの楽しかったな、なんて感想を話しつつ、雪月とおばーちゃんの待つ家に帰ったのだった。

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