3話「初レッスンと披露回」

「…あ、おはよう雨月」


「雪月おはよー」


昨日が楽しくて、あんまり眠れなかった俺はちょっとまだ眠くて。

ほぼ無意識で雪月に挨拶をする。


「昨日、楽しかったね」


「楽しかった…けど、今になって急に疲れっていうか、緊張?が出てきた気がする…」


「昨日は、流れるように話が進んでたから、緊張も出来なかったのかも」


「しかも、今日からレッスンが始まるらしいし…!

月曜なのに」


「…でも、ちょっと楽しみだな」


「それはまあ、分かるけど」


「今日、学校が終わったら事務所に行くんだよね?」


「うん、確か。

受付で名前を言ってレッスン室使用の紙を書くとかなんとか?」


「事務所に流衣…とか、竜…がいたらいいね」


「きっといてくれる…はず!」


そんな会話をしながらおばーちゃんに挨拶をして、朝ごはんを食べて。

あっという間に学校へ行く時間になって。

おばーちゃんに手を振って家を出る。


「雪月、俺今日も授業あんま聞いてないかもしれない」


「…うん、俺もそんな気がする」


「…放課後、教室迎えに行く?」


「うん、じゃあ俺は教室で待ってるね」


すぐ隣の教室だから、迎えに行くとかじゃないかもしれないけど、約束をして別々の教室へ入る。

…いつもと同じはずなのに、ちょっとだけ教室の中が違って見えた。


「あ、雨月おはよう」


「おはよう」


席に着くまでに声をかけてきた人に挨拶を返して、今日の1限目のことを考えながら席に座る。

…今日の放課後、楽しみだな。

そうして、あっという間に放課後になって。

あの日と同じように、雪月と教室を出て歩く。


「事務所、事務所かー。

…道、俺覚えてたっけ…」


「家から行くのとはまた違うから、迷わないようにしないとね」


「…レッスンってどんな感じなんだろ」


「歌とか、ダンス…とか?」


期待とちょっとの不安が混ざった会話をしながら、駅まで歩いて。

雪月とこの間降りた駅を思い出しながら事務所へ向かった。


「…着いた!」


「constellation、っていつ見ても大きい感じがするね」


話をしながら、この前よりもスムーズに事務所のドアを開ける。

…誰かいるかな。


トンッ


「わっ」


「…あ、すみません」


雪月と話をしながらだったせいか、ドアの近くにいた人にぶつかってしまう。


「怪我とかありませんか?」


「大丈夫です!」


「…よかった…」


「お兄さん、えっと…宮園さん?

ここの人なんですか?」


「はい、そうですよー。

ここでとあるユニットのマネージャーをしてます」


「…マネージャー…!」


「…あ、すみません、ちょっと聞いてもいいですか?

俺たちあんまりここに慣れてなくて…」


「…はい、なんでもどうぞ〜」


「今日ここでレッスンを受けるんですけど、レッスン室って…」


「レッスン室、ですか。

ちょっと待っててください、空いているところを確認して来ますね。

…名前を聞いてもいいですか?」


「あ、柊雨月と、雪月です。

双子なので苗字が一緒で」


「柊雨月くんと柊雪月くん、ですね。

ありがとうございます、調べて来ますね」


「お願いします」


数分後、宮園さんが笑顔で戻って来た。


「…あ、ありがとうございます」


「調べて来たんですけど、…えっと、aquaのレッスンで合ってますか?」


「あ、はい」


「そしたら…ここをまっすぐ行ってエレベーターかエスカレーターに乗って…3階のレッスン室5ってところですね。

おれが受付を済ませて来たので、このまま行って大丈夫ですよ」


「…!

ありがとうございます」


「いえいえ。

おれもここでよく迷っちゃったりするので、困ったときはいつでも声をかけてくださいね」


「ありがとうございます!」


頑張ってください、と手を振ってくれた宮園さんにお礼を言いつつ、教えてもらった道順でレッスン室に向かって。


「…あ、レッスン室5…ってここ、かな」


「中から話し声が聞こえるし、もうみんないるのかも。

行ってみよー」


ガチャッ


「…お、来たな」


「いらっしゃい、2人とも。

迷わなかった?」


「迷ったけど、親切な人が助けてくれたから大丈夫!」


「親切な人?」


「宮園さんって言って、マネージャーしてる人、みたいで」


「宮園…あ、悠希さんかな」


「あの人か」


「…みんな知ってる感じの人?」


「まあ、ここでは有名だな」


「き、気になる…。

けど、今日レッスンだしもう始めないとだよね」


「俺たちが来るまでは何をやってたんですか?」


「とりあえず柔軟と声出し、竜が作った仮のメロディに合わせて歌ってみたり…とかかな?」


「…竜って曲作れるんだ…」


「ってことは、もしかして俺たちの曲…」


「そう、竜が作ります!」


「流衣が自信満々に言うことか…?」


「竜の曲、俺好きだから嬉しくて!」


「竜っていつから曲作ってるの?」


「簡単なのなら結構前…流衣と会った頃にはもうやってたな」


「中学の頃から…!」


「本格的にやりだしたのはこの仕事始める少し前だったか」


「あ、その話は俺も初めて聞くかも」


「…ああ、そういえば流衣にも話してなかったか。

特に深い理由はないんだが、時間が余ったから作ってたんだ」


「…そうなんだ」


「流衣は何かやってたの?」


「俺はテニス!って言いたいところだけど、俺も特にやってなかったんだよね。

仕事どうしようかな、ってことばっかり考えてたかも」


「アイドル目指してたって聞いたけど、オーディションを受けたり…?」


「あ、そうそう。

してたしてたー。

ここは募集なかったんだけど、他の事務所のとか、色々ね」


「…へえ…」


「ちなみに、ここが募集してたら?」


「もちろん応募したよ。

…でも、受かっててもだめでもaquaにはなれなかったと思うから、この形が良かったのかも」


「…流衣が他でアイドルになってなくて良かった」


「他でアイドルしてたら、冷さんや竜ともこんなに仲良くならなかったかもしれないしね」

「そもそも他事務所だし、冷と会うことはほぼなさそうだな」


「…た、確かに…。

そう思うとほんとここで良かったな…」


「…ああ、そうだな」


「竜が素直だ、珍しい」


「…たまにはいいだろ」


「うん、っていうかもっと素直になっていいんだけどね?

竜は曲作れるすごい人なんだし!」


「…で、今日のレッスンの話していいか?」


「…あ、忘れてた…」


「その話から、流衣の話まですごく自然に変わったから俺もちょっと忘れてた、かも」


「元は竜の曲の話だったしね」


「今日のレッスンはお互いを知ること、つまり、歌とダンスの披露会だな」


「ひ、披露会…」


「レッスン最初ってそんな感じ…?」


「冷さんはあんな言い方してるけど、雨月と雪月、俺と竜がどれだけ踊れて歌えるのかをお互いに知ろうってことだと思うよ」


「…ああーなるほど」


「俺と雪月は路上パフォーマンスしてた、って話しかしてないし、確かに見せたことなかったかも」


「俺たちも、踊りと歌は見せてないしな」


「各々自由に…って言うと大変だから、課題曲決めるぞー」


「なんか、部活みたい…」


「わかる」


「課題曲は、stair☆sのレヴィ。

雨月と雪月、聞いたことは?」


「もちろん!

最近は違う曲なことが多いけど、ちょっと前はレヴィばっかり流れてたし…」


「俺と雨月も好きだったので、よく聞いてます」


「じゃ、大丈夫だな。

練習時間を15分として、20分後に歌披露、その後ダンスで続けてやるからな」


「…ちょっと緊張してきた…」


「雨月、リラックスリラックス。


審査とかじゃないし、気軽にね」


「…が、頑張る…」


流衣の言葉に励まされながら、雪月とパート分けされた歌詞を見る。

俺がひかるさんのとこ、雪月が織さんのところを歌うんだけど、…この曲ちょっと難しいんだよね。


「…あ、そういえば、2人はstair☆sがここの所属ユニットだって知ってる?」


「…えっ」


「…知らなかったか…」


「そうなの?」


「ここ、constellationが出来てすぐに初めて所属したユニットみたいでね。

そこら中にstair☆sのポスターとか貼ってあるよ」


「…そうなんだ…」


「だから、ひかるさんと織さんは先輩ってわけ」


「…!」


「いつか紹介とかあるかもしれないし、頑張っておけば本人に見てもらえるかも!」


「…そっか、ここにいるんだ…」


「ちょっと、会ってみたいかも」


「流衣たちは会ったことあるの?」


「廊下ですれ違ったり、お疲れ様でーすって挨拶したことがあるくらいかな。

俺たちはスタッフの立場だから、会話はしたことないと思う」


「…そっか」


「会えるといいね、いつか」


「…うん!」


そして、20分後。

どっちが先に歌うかじゃんけんをして、今は流衣と竜の番。

パートは、流衣がひかるさんで竜が織さん。


(…、すごいね)

(…うん)


伸びやかな高音と、綺麗なハモリ。

さっきまで俺たちと話してた2人とは、雰囲気も違って。

…すごい人なんだな、って改めて思った。


「終わらないstair☆sをー♪」


「はい、終了っと。

どうだった、2人とも」


「…すごかった。

俺たちとは全然違うんだな、って」


「竜も、流衣もすごく声が綺麗で、ずっと聞いてたい曲でした」


「だって、良かったな?」


「無事歌い終わって良かったーしかなかったのに、そんな嬉しい感想もらったら、俺何回でも歌えちゃいそう」


「…俺は歌わないから1人でどうぞ」


「言うと思った!

俺は何度でも竜と歌うからね…!」


「…じゃ、次雨月と雪月の番な。

準備して、マイク持ったら曲かけるぞ」


「はい」


「……」


さっきの、流衣と竜を思い出して。

あれにはまだまだ届かないけど、俺たちの精一杯を出せたらいいな。


カチッ


「キミを見てー♪」


…歌い出すと、練習の時よりも声が響かない気がして。

少し、どころじゃない不安の顔で雪月を見る。

…俺たち、まだまだなんだ、ってことを、改めて知ったような気がした。


「…終わらないstair☆sをー♪」


「はい、終了」


歌い終わりと同時に拍手が聞こえる。


「俺、雨月と雪月がメンバーで良かった…!

すごい好きだったよ、2人のレヴィ」


「…え、」


「雪月があんなに高音綺麗に出るなんて、って隣で竜も言ってたし、大成功だよ」


「…!」


「…まあ、良かった」


「けど、まあ自分たちでもわかってる通り、まだまだ伸びるから」


「…はい」


「こっから先は歌う中で、どんどん成長してけばいいんじゃないか?」


「そうそう。

今でここなら、デビューの時にはすごい成長してると思うよ」


「…頑張れ」


「…、頑張る…!」


「…ありがとう」


「じゃ、次ダンスなー」


「切り替えはっや…。

さすが冷さん」


「まだ披露会半分終わった段階だからな?

ここからが本番で、始まりだからサクサクいくぞ」


「はーい」


…と、柳原さんが言うように。

ダンスの披露会もサクッと終わり、これからについての話し合いをすることになった。


「…まず、これからの予定と目標だな」


「目標…ってデビューじゃないの?」


「それは最終の目標。

簡単なところからやってって、最後にそこって決めると上達しやすい」


「…じゃあ、まずは俺たちが流衣と竜に追いつく…とか?」


「とか。

あとは竜の進捗次第だけど、デビュー曲の準備も進めていきたいな」


「…デビュー曲…」


「あ、そういえば、おばーちゃんがデビューライブするって…」


「そう、そこが今の時点での最終目標であり、スタート地点。

そこに向けて、1つ1つ課題をクリアしていくのが今後の予定だな」


「レッスンって…毎日やるんだよね?」


「ああ、とりあえず雨月と雪月は学校帰りだけでいいから毎日事務所に来てもらってレッスンする予定」


「…流衣と竜は…?」


「仕事の合間にレッスンしつつ、雨月と雪月が来たら4人でのレッスンをしていく、って感じ」


「…やっぱり」


「加えて、竜は作曲もあるから倒れないように流衣が見張ること」


「それはもちろん!

任せといて」


「…そこまで心配されるのか…」


「竜、今までもご飯食べなくて倒れてることあったし本気で心配してるんだからね…!」


「…まあ、善処はする」


「…これ、絶対しないやつだ」


「…うん、そんな感じがするね」


「まあ竜のことは流衣に任せるとして…。

雨月と雪月はレッスン大丈夫そう?」


「…多分、いや、大丈夫!」


「俺は雨月より苦手なことも多いから、多分すごく頑張らないといけないと思うけど。

…頑張ります」


「…よし。

じゃ、今日はこのくらいにして、あとは明日から本格的にレッスンしてくか」


「じゃあ、今日はお疲れ会ってことで冷さんも一緒にご飯行かない?」


「さらっと俺も巻き込むのか」


「昨日カフェ行った時いなかったし、冷さん含めてのaquaだからね」


「…確かに」


「よし、じゃあ冷さんどこ行きたい?」


「ファミレス」


「却下!」


「普通にその辺の店でいいんじゃないか」


「…じゃあ、歩きながら考えようか」


「賛成ー」


「あ、俺おばあちゃんに連絡しますね」


「了解。

先に外で待ってるね」


流衣の言葉に頷いて、雪月が電話をかけ始める。

…俺も一緒に話そうかな。


「…あ、もしもし」


「雪月と…近くに雨月もいるね?」


「さすがおばーちゃん。

うん、俺もいるよ」


「レッスン、今日からだってね。

どうだった?」


「今日は俺たちの実力を知る会、ってことでダンスと歌を披露してね」


「流衣も竜も、すごかった!

俺たちも頑張らないとなって思ったんだ」


「…仲良くみんなで過ごせてるみたいで安心したわ。

この時間に連絡…ってことは、ご飯でも食べてくるの?」


「あ、そうだった!

うん、みんなでね、食べてから帰ることになった」


「楽しんで来てね、うちのことは大丈夫だから」


「うん、ありがとう」


「帰る頃に、また連絡するね」


ピッ


電話を切って、雪月と笑い合う。

…これから、まだまだ頑張らないといけないけど、雪月と、流衣。

竜に柳原さんがいたら、頑張っていけそうな気がした。

悠月星華

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